マルメから北東へ50km、高速を使って車で40分、Höör市のRingsjöという湖のほとりにあるBosjöklosterというお城で開催された手工芸展に行ってきました。
Bosjöklosterは、
kloster(修道院
)という名前の通り、ローマ・カトリック教会のベネディクト修道院として
1080年に創設されました。
Bosjöklosterのあるスコーネ地方は、当時はデンマーク領でした。
1517年にドイツでローマ・カトリックの堕落を糾弾する宗教改革が始まると、
1520年代にはローマ・カトリックからプロテスタントへの教会勢力移行の波が北欧にも伝わり、デンマークやスウェーデンのベネディクト修道院は解散させられました。これを受けて、
Bosjökloster も
1536年に閉鎖されました。その後、
Bosjöklosterはデンマーク王室の所有となりましたが、
1560年にスコーネ在住の未亡人に譲渡され、
1629年に地元ベック家に引き継がれて、修道院から個人所有のお城に生まれ変わりました。
1658年にロスキレ条約が結ばれてスコーネ地方がスウェーデン領になると、
Bosjöklosterはスウェーデン王室の所有となりましたが、管理
されずに荒廃していました。1735年にベック家が訴訟を起こし、Bosjöklosterはベック家に返還されました。その後お城は改装され、
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| ボビンレース |
1908年にボンデ伯爵に売られました。現在もBosjöklosterはボンデ伯爵の一族によって管理されており、美しい中庭やバラ園、仔馬やヤギ、アルパカに触れることができる公園などを一年中訪れることができます。ここで結婚式を挙げることもできますし、コンサートや各種催し物、クリスマスマーケットも開催されます。うちもそうですが、近隣の人たちは年間パスを購入して、休日などにお弁当を持って家族連れで気楽に訪れています。夏の間はレストランもオープンしています。
今回訪れたSlöjd- & Hantverksdag
手工芸展は、毎年5月にBosjöklosterで行われる定期イベントです。今回は2棟の大きな馬屋を使って、30組以上の工芸家が展示即売、製作実演、一般客が参加できる製作ワークショップなどをやっていました。どのブースに行っても、工芸家のおじさんおばさんたちのよくしゃべること。スウェーデン語でばーっと説明し始めて、私がスウェーデン語を話さないらしいとわかるや、ぱっと英語に切り替えてまたばーっと説明してくれます。こういったイベントでは、購入の品定めも楽しいですが、作っている人たちとの会話がまたおもしろいのです。ここが凄いんだとか、昔はこうやって作っていたとか、大量生産のものとはここが違うとか、関係ないけど私の息子がどうのこうのとか。さすがに手間暇かかっているだけにどれも結構いい値段で、あれもこれも買えるわけではないのですが、こちらが買う買わないに関わらず、お
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| 藁細工のヤギと馬 |
じさんおばさんたちは一生懸命話してくれます。たぶん、自分たちの作品の話を聞いてもらうこと自体が楽しいのでしょう。こちらも、この人のよさそうなおじさんやおばさんが楽しんで作ったものだと思うと、最近流行りの栽培農家の顔写真がついた野菜と同じで、なんだか安心して使えるような気がしてきます。当日見かけた作品をいくつかご紹介します。
ボビンレース。
糸をいくつものボビンと呼ばれる糸巻きに巻いて、織り台の型紙に糸の始端をピンで固定して織り始めます。2つのボビンを両手で持って左右に交差させ、糸の交差点をピンで固定しては、また別の2つのボビンを交差させ、という手順を繰り返しながら、何十ものボビンを操って複雑な模様を織り上げていきます。熟練者でも1時間に5cmくらいしか編めない気の遠くなるような作業で、テーブルセンターなどの大物はたいへんな手間がかかっているそうです。
藁細工のヤギと馬。
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| 草木染めの毛糸とニット帽 |
藁のヤギは、スウェーデンのGävleイェヴレ地方の伝統的なクリスマス飾りです。たてがみの立派な馬は、このおじさんのオリジナルデザインのアイスランドホースです。うちの奥さんがこのアイスランドホースに一目惚れしてしまい、さんざん迷った末に一頭うちに連れて帰りました。
草木染めの毛糸とニット帽。

このおばさんたちは、自分たちで羊から毛を刈り取り、紡ぎ、採った草木で染めて毛糸を作ります。さらに、この毛糸で帽子などを編んで、自分たちでも着ています。一般的なベニバナやアイなどだけでなく、クルミなど何でも染めることができるそうで、写真のカラフルな帽子も全て草木染めの毛糸だけで編んでいるそうです。この日は、うちの奥さんがたまたま日本の藍染めのポシェットを持っていたため、またまた話が盛り上がっていました。
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| スウェーデン刺繍 |
スウェーデン刺繍。

スウェーデンを中心に北欧で行われている伝統的な刺繍で、経
(たて
)糸が交互に浮き織りになった布の織り糸をすくって刺す刺繡、だそうですが、私には何のことやらさっぱり、です。おばさんたちも、さすがに私に説明しても無駄と察したのか、話はもっぱら息子のことでした。ブースに飾られていた刺繍は、
1800年代に作られたもの
(年号が織り込まれています
)や、子供の洗礼式
(Dopdagen)の記念に作られたものなどで、買えるのかと聞いてみたら、もちろん非売品でした。もし値段をつけるなら
1ミリオン
(約1300万円
)近くになるわよとおばさんに耳打ちされました。
サーメ族のブレスレット。

サーメ族は、スカンジナビア半島北部のラップランド地方に居住する先住民族です。彼らの伝統工芸品であるブレスレットは、バンドはトナカイの革、留め具はトナカイの角でできています。彼らはトナカイを残さず使うのよ、とおばさんが言っていました。
他にも、ハンドメイドのナイフや、木のツルで編んだ籠など、おもしろい実演がたくさんありました。いろいろな作品を見て歩き、いろいろな人と話しているうちに、自分でも手作りするのが大好きなうちの奥さんは、来年は出品する側になることを考え始めたようです。私は、実はこういったイベントにはあまり興味がなく、うちの奥さんにしぶしぶつき合って来たのですが、おじさんおばさんとおしゃべりをして、春の陽射しの中でお城の庭を散歩しているうちに、結構楽しんでいる自分に気がつきました。やっぱりそういう歳になったのかなあ。
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