Slånbär スローベリーを摘みました

友人のうちの庭(と言っても広大な農地です)で、slånbärスローンバー、英語名sloe berryスローベリーを摘ませてもらいました。スローベリーは、英語でblackthornブラックソーンと呼ばれるスモモの木になる黒い小さな果実です。ブラックソーンの木は、日本ではスピノサスモモと呼ばれています。

スローベリーは、実の大きさも色も外見はブルーベリーによく似ていますが、黒い外皮を剥くと白い果肉が顔を出します。実の大きさの割に種子が大きくて、プラムのように果実そのものにかぶりついて楽しめるほどの果肉はありません。実を食べるというよりは、ジャムやジュース、果実酒にするのが一般的なようです。

ブラックソーンは、他の木々に先駆けて春の早い時期に白い花を咲かせますが、その実であるスローベリーは、花の咲き始めからほぼ一年かけてゆっくりと成長し、初霜が降りる頃にようやく熟します。こうやって時間をかけて熟すことにより、スローベリーには天然のフルーツ酸(クエン酸やリンゴ酸など)が多く含まれるようになります。フルーツ酸は、疲労の原因となる乳酸を分解・排出し、また血液をサラサラにして血流を改善する作用があるため、身体の新陳代謝を促し、疲労回復に効果があります。

秋になって気温が下がってきたとはいえ、南スウェーデンも今の時期はまだ+10℃くらいで零下までは下がらないため、スローベリーもまだ熟しておらず、果肉をかじってみると、甘酸っぱいというよりはただ酸っぱいだけです。このため、秋に摘んだスローベリーは、いったん冷凍庫に入れて凍らせてから使います。こうすることにより、本来ならスローベリーが枝についたまま経験するはずの初霜がシミュレートされ、自然な甘さが引き出されます。なんだかスローベリーの体内時計ならぬ体内温度計を騙して熟させるようでおもしろいし、初霜が降りるのを待って凍える手でスローベリーを摘まなくても、暖かいうちに摘んでしまって冷凍庫に保管しておくうちに甘くなってくれるのはありがたいですね。

ブラックソーンという名前は、その黒い樹皮と鋭い棘thornソーンに由来しています。この棘は細長くてとても鋭く、スローベリーを採ろうとするとどうしても手の甲が近くの棘に触れてしまい、ひっかき傷だらけになってとても痛いです。このため、家の周囲に生垣や鳥獣避けとして植えられることもあります。また昔は、災いや病気などから身を守るために、ブラックソーンの枝をお守り代わりに玄関や出入り口に吊るしていたこともあるようです。一方で、薬や医療が発達していなかった古代には、この棘によってできた傷が家畜や人間を死に至らしめることもあったため、ブラックソーンは不吉なものとして恐れられ、相手を呪う術に使われていたこともあるそうです。日本の藁人形に五寸釘と同じ感覚で、蝋人形にブラックソーンの棘を差したりとか。

ブレンヴィーン
今回は、採ったスローベリーを使って果実酒Sloe Ginスロー・ジンを作ってみました。スロー・ジンは、透明な風味のない蒸留酒にスローベリーを漬け込んで作るリキュールの一種で、いろいろなカクテルのベースとなります。昔からイギリスでは、スローベリーを自分の庭で栽培し、ジンにつけ込んでスローベリー酒を作ってきました。そして、ちょっと疲れたときとか、胃の調子を整えたいときなどに飲んできました。ちょうど日本の養命酒のような感じで飲まれてきたのかもしれません。本来スロー・ジンを作るベースは、別にその名の通りジンでなくても、透明な蒸留酒なら何でも構いません。しかし、そもそものイギリスでの作り方が名前の由来となって、いまでもスロー・ジンと呼ばれています。実際に商品として売られているスロー・ジンは、ジンではなくジャガイモや穀物から作られたBrännvinブレンヴィーンという蒸留酒をベースとしています。Brännvinは、直訳すれば燃えるワインという意味で、アルコール度数が3038%と高く、アイスランドのブレニヴィーン、デンマークやスウェーデンのアクアビット、そしてウォッカも同じ種類の蒸留酒です。

今回私は、スロー・ジンの名前の由来に敬意を表して、ドライ・ジンベースで作りました。レシピを調べてみると、スローベリーを漬け込む際には、フォークの先などで一つ一つ外皮に穴を開けるべし、と書いてあります。そんな面倒なことをするのは何事にも本格を求める凝り性な人だけだろう、たぶん一般人は手抜きしてそのまま漬け込んでいるだろうと思い、念のためYouTubeで探してみました。そうしたら、なんとみんな生真面目に一つ一つ穴を開けているんです。スローベリーは外皮が硬いので、エキスを抽出させるのに必要なんだとか。しょうがないので私も、これじゃスロー・ジンじゃなくてヒマ・ジンじゃないかとブツブツ言いながら、2時間かけて全部に穴を開けました。

その後は簡単で、密閉できる瓶にスローベリー500g、strösockerグラニュー糖250gとジン1リットルを入れて、しっかり栓をしてシャカシャカ振って出来上がり。二ヶ月冷暗所に置いておけば飲めるようになるはずです。今から二ヶ月後ということは年末で、先月作ったプラム酒もちょうどその頃味見ができるので、今年のクリスマスには二種類の自家製果実酒で乾杯できそうです。楽しみ、楽しみ。


チャーリー・チャップリン
因みに、スロー・ジンをベースにしたカクテルとしては、チャーリー・チャップリン(スロー・ジン+アプリコット・ブランデー+レモンジュース、名前の由来はスロー・ジン発祥のイギリスがチャップリンの生まれ故郷だから)、キッス・オブ・ファイア(スロー・ジン+ウォッカ+ドライ・ベルモット+レモンジュース、名前の由来はこのカクテルが考案された1953年当時流行っていたルイ・アームストロングの曲名から)、エクスポジション(スロー・ジン+チェリー・ブランデー+ドライ・ベルモット、展覧会という名前ですが由来は?)などがあります。普段はワインとビールばかりですが、これを機会にカクテルも作ってみようか、それに合うつまみも考えなくちゃ、などともう気分はクリスマスです。

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